「逃げる」の評価の移り変わり
「逃げる」という言葉に対してマイナスな印象を持つ人が今はだいぶ減ったように感じます。
あなたは「逃げる」という言葉に対してどんな印象がありますか?
この言葉の使用頻度が最も高い場面は就職に関してではないでしょうか。
就職し始めて数年経過した新入社員が会社でうまく馴染めなかったり、今の仕事が本当に自分に合っているのかを考えた際に転職することを検討していると「逃げる」という言葉が連想されてしまいがちです。
そもそも「逃げる」という言葉は「逃げるが勝ち」や「三十六計逃げるに如かず」など大昔に戦術の選択肢として採用されるうえに、後世にも関連する言葉や逸話が残るほど有効な手段ではないでしょうか。
それが時代を超えて色々な人に触れられている内に、意味合いや印象がどんどん変わっていき、「逃げる」という言葉がまるでマイナスな印象しか持たない時期がありました。
これは正に手垢にまみれた言葉を使用していませんか『「普通がいい」という病』で紹介した「言葉の手垢」そのものです。
就職して数年以内に辞めてしまうことに対してX等のSNSやYouTube等の動画サイトでたびたび議論になり、辞めるということが「逃げる」というマイナスな印象を「逃げる」のは自分の心身を守る行為であると、肯定的な印象で受け止める人もだいぶ増えてきました。
以前までは「我慢する」しか選択肢がありませんでしたが、その人が置かれている状況や背景を考慮した際に選択肢として挙げられるほど市民権を得ているように現在は見受けられます。
ですが、いざその「逃げる」という選択肢を選んだ時に、あなたは上手に逃げることが出来るでしょうか。
その「逃げる」ことに焦点を当てて、逃げ方の心構えを教えてくれるのが今回ご紹介する『逃げ出したくなったら読む本』です。
自分自身と向き合うには
「逃げ出したい」と思うのは言葉の手垢にまみれていない、あなた自身の本心から出てきた言葉です。
まず、この感覚を大切にしてください。
「逃げる」ということに対して、最初にやらなければならないのは自分自身と向き合うことです。
自分の気持ちと向き合うというのは、”いま感じている自分の気持ちに気づく”ということです。このこと自体を大きく捉える必要はありません。
(『逃げ出したくなったら読む本』より引用)
この文章を読んで「逃げ出したい」という”いま感じている自分の気持ちに気づく”ことが出来ました。
同時に自分自身と向き合うことも出来たわけですが、その際に自分を責めたり否定をする必要はありません。
その根源は他者から見た場合のあなたの気持ちであり、あなた自身の本当の気持ちではないからです。
筆者の石原加受子さんは人の意識を大きく二つに分けて、「他者中心」と「自分中心」という捉え方をしています。
「他者中心」とは自分の意識の目が他者や周囲に向いている状態であり、「自分中心」とは自分の意識の目が自分に向いています。
「逃げ出したい」と思ったときに、責めたり否定するのは自分ではなく空想上の他者です。
今までの人生の経験則から他者が言いそうなことが自分の中にインストールされており、その方向に意識の目を向けているだけです。
なので、「自分中心」になって自分の方に意識の目を向けて、いま自分がどんな気持ちになっているかを感じてみてください。
その生まれてきた気持ちを自然体で受けとめて、労わることが「自分中心」にとって大切なことなのです。
この「他者中心」と「自分中心」は自己肯定感を高めたいなら、「カメレオン人生」をやめましょう『「自分がイヤだ!」と思ったら読む本』の記事でも触れられているので、興味がある方は是非ご参照ください。
出来ないところに目を向けると失敗しやすいのは何故か
本書では職場や人間関係など様々な場面で「逃げ出したい」と思ったときの対処法を取り上げているのですが、私が特に共感出来たのは「毎日の仕事から逃げ出したいとき」の『「できていないところ」よりも「できているところ」を見る癖をつける』です。
物事には、できているところ、できていないところの両面があります。けれども、多くの人が、できているところよりも、できていないところを探します。それらを拾い集めては、「自分はダメだ。劣っている。能力がない」というふうに自分を否定してしまいがちです。
(『逃げ出したくなったら読む本』より引用)
過去の私がこの文章の通りの否定してしまいがちな人でした。
幼少期の頃から自分が出来たところではなく、出来なかったところを両親に指摘されて育ったからか、出来ていないところに常に意識をしているのが通常の状態であり、その感性のまま仕事をしていました。
出来ていないところを意識しすぎるあまり他の部分が疎かになり失敗して、次はいま失敗した箇所を出来るようにすることに意識が向きすぎて、また前の出来ていないところを失敗するというループをし続けていました。
このままではいけないと思い、この現状を変えるために試行錯誤をして辿り着いたのが、出来たところに意識を向けることでした。
気付いたその日から仕事をしていて、たとえどんな些細なことでも自分が出来たことをノートに書くようになりました。
最初は「上司に挨拶をする」とか「遅刻せずに出社出来た」など、本当に当たり前で小さなことから書き始めていたのですが、続けている内に自分の出来たところが可視化されていく様子を見て、自分の中で少しずつ小さな自信が生まれて蓄積されていくのが実感出来ました。
出来るところに意識を向ける感性が養われたことで、仕事を始める前にどうすれば出来るようになるかを考える習慣が身に付き、出来なかったところだけに意識を向けるのではなく、出来るところにも意識が向くようになり、全体的に視野が広がることで適切な意識を向ける量を配分し仕事が出来るようになりました。
ネットの影響からか、昨今は出来なかったところに意識が向きがちな世の中になっていると思います。
親や上司など身近な方から出来なかったところに目を向け続けられて、辛い思いをされている方も多いのではないでしょうか。
もしかしたら、この記事を読んでくださっている読者の皆様の中にもそのような思いを感じている方がいらっしゃるのかもしれません。
ですが、もうそんな思いをしなくてもいいんです。
この記事を最後まで読むことが「出来て」いるのですから。
次の「出来た」ことの第二歩目として、この本を読んでみてはいかがでしょうか。
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