科学者にも注目されるお笑いの世界
最近、あなたが心から笑った出来事を思い出せますか?
お笑いは今やテレビだけではなくYouTubeで検索すればたくさんの動画がありますし、24時間好きな時に好きなだけ見れることが出来ます。
お笑い芸人が必死に考えた漫才やネタを全力で行っている姿を見ると、面白くて笑ってしまいます。
M-1グランプリやキングオブコントなど、大きなお笑いの大会では多くの人が毎年注目されていますし、優勝されたお笑い芸人はその後の人生が変わるほどテレビの出演回数が圧倒的に増えます。
多くの人が注目しているお笑いですが、実は科学者にも注目されています。
ある大学教授が吉本興業と協力して、糖尿病の実験を行いました。
お笑い芸人の漫才を見た後に、検査を行うと血糖値が大きく下がっていたのです。
その大学教授は「笑いは副作用のない薬だ」と述べており、「笑いは人生において大切な要素である」とも語っています。
笑いの効果は健康だけではなく人生にも深く関わりがあることを、生命科学を専門にしている教授が自身の半生にも紐付けながらわかりやすく説明しているのが、今回ご紹介する『アホは神の望み』です。
いつも本サイトを訪れて記事を読んでいただき、ありがとうございます。
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Audibleの公式サイトはこちらからどうぞなかやまきんに君さんは典型的な神に好かれるアホ
著者の村上和雄さんは、筑波大学の名誉教授です。
2021年に亡くなられていますが生前は遺伝子の研究をしており、大きな成果をたくさん残してきました。
遺伝子の研究で実験したのが吉本興業との取り組みです。
著者はその取り組みと笑いの効用について次の通り述べています。
専門である遺伝子と笑いの研究を、あのお笑いのメッカである吉本興業と組んで大真面目に行っています。
その研究では糖尿病の患者さんに漫才を聞いてもらい、散々笑った後で血糖値を測る。
すると、その数値がぐんと下がった。
などといった実験結果を得ています。
つまり、笑いは薬、それも副作用のない薬であることがわかり始めているのです。
笑いの効用は心の健康にも及びます。
屈託のない笑顔を見ると、私達はなんとも言えない温かさや癒しを感じて無条件で心を許し、心を開きたくなります。
その典型が赤ちゃんの笑みです。
赤ちゃんは生まれてからしばらく経つと、誰に教えられたわけでもなく、実に柔らかい、邪気のない微笑みを浮かべます。
エンジェルスマイルと呼ばれるこの人生で最初の笑みは、遺伝子の働きと関係があると私は思っており、言葉を覚える前、人はまず笑う。
初めに笑いありきなのです。
無論、この天使の笑みを見たお母さんや家族はかわいいと感じて、思わず笑みを返す。
すると赤ちゃんはますます微笑むようになり、スキンシップやコミュニケーションが深まっていく。
すなわち笑いは相手の不安や緊張をほぐし、心に潤いや穏やかさをもたらす、人の心と心を繋ぐ極めて重要なコミュニケーションの道具なのです。
また、大きな声で笑うと、私達の命は揺れます。
笑いは生の脈動でもあり、充実でもあるのです。
体の免疫力を高めてくれる薬であると同時に、心の安定剤でもある。
それに接した人に幸せをもたらす幸福の種である。
私達の生命力を深いところで活性化してくれる動力でもある。
それが笑いなのです。
本書のプロローグに書かれている最初の文章は「人を救うのは笑い」。
著者は本書の冒頭から笑いの効果に力説するも、「この頃日本から笑顔が減った」と述べています。
「街を歩いていても、電車に乗っていても、無表情や不機嫌そうな顔に出くわすことはあっても、ニコニコと明るい笑みを見かけた顔を見ることがめっきり少なくなった」と語っています。
本書が発売されたのは2008年ですが、16年経った今も状況はさほど変わらないでしょう。
Bluetoothで音楽を聴きながら歩いている方や電車内ではほぼ全ての乗客が無表情でスマホを見ているのは想像しやすいはずです。
「笑顔が少ないのは人々の心から余裕が失われて、社会に閉塞感や緊張感がはびこっている証拠」
「今の時代の息苦しさや生きにくさもその辺りから発している」という著者の考察に16年経った今も共感を覚えます。
笑いが減るのと並行するように、世の中に利口な人が増えたと著者は見解を示しています。
利口な人は自分の力だけで生きていると思い上がり、周りの人を見下すような態度を取っていると分析もされていますが、それが最も顕著に表れているのがSNSではないでしょうか。
自らの自慢や権威性を掲示したり、テレビやYouTube等の人前に出ている人の失敗を執拗に叩いている姿を見かけることが年々増えているのを実感します。
この様な利口な人は神に嫌われる人の特徴ですと著者は断言し、ではどういった人が神が好きなのかというと「器の大きなバカ、素直で正直なアホ」だと答えています。
SNSの発展により、失敗したら叩かれる風潮が根強いからか「失敗することは恥ずかしい」という意識が蔓延しているような気がします。
ですが、神が好きなのは「器の大きなバカ、素直で正直なアホ」であるのは現在も変わりません。
私がこの話を聞いて思い出したのが、お笑い芸人のなかやまきんに君さんです。
2000年にピン芸人でデビューしてから筋肉一筋で自らのお笑いを貫いており、低迷して露出が少ない時期もありましたが、それでもYouTube等のメディア媒体に移行しながらも筋肉でのお笑いを貫き通して再ブレイク。
今も多くの方に認知されて愛されるお笑い芸人となりました。
これは神に愛される様な特徴である「器の大きなバカ、素直で正直なアホ」の代表例だと、私は個人的にそう思っています。
「神」と聞くとどこかスピリチュアルめいていて、うさんくさいと思われた方もいるかも知れません。
しかし、「神」を「運」に置き換えると受け入れやすくなるはずです。
以前、新しいことに挑戦しても続かないのは現状維持メカニズムが原因です『思考は文字化すると現実化する』の記事の冒頭で大谷翔平さんが高校生の時にマンダラチャートを書いていたことを紹介しました。
大谷翔平さんが高校生の時に書いたマンダラチャートに「運」の項目があります。
「運」を手に入れるために高校生の時の大谷翔平さんが何をしていたのかというと、「ゴミを拾う」や「挨拶をする」、「部屋の掃除」などです。
野球に「運」の要素が必要なのは、どの高校も練習を一生懸命頑張っているのは同じなので、最後のひと押しが何で決まるかというのが「運」なのではないかと私は考えています。
どんなに強い強豪校でも甲子園では本当に何が起こるかわかりません。
不確かな部分を少しでも「これだけやったんだから」という自信に繋げたいから、「運」という項目でマンダラチャートを作成する必要があったのではないでしょうか。
そして、「運」は科学の世界にもそれを言い表す専門的な用語が存在します。
「セレンディピティ」という言葉をご存知でしょうか。
「偶然による思いがけない幸運」という意味で科学の世界ではこの言葉が使われています。
科学は論理や理性の固まりだと思われがちですが、実はそんなことはなく、科学上の大発見や大発明には非論理的な偶然や勘違いなどが大きく寄与していることが珍しくありません。
試薬を保管していた土台ボックスの密封が緩んで、そこから湿気が入り込んだことが想定外の触媒効果を生んだ。
この偶然によってインフルエンザの予防薬のタミフルの合成は生まれました。
「あの時ああしていたら」や「その瞬間に気が付いていたら」などの些細な偶然の積み重ねによって、新しい発見が生まれるのは科学の世界ではよくあることなのだそうです。
今まで100年間気が付かなかったのに、101年目でセレンディピティにより発見された場合、その100年間はずっと人目に付かずに埋もれていたわけです。
そこを「こんなところにもしかしたらあるかもしれない」とセレンディピティを生み出す一歩を踏み出せるのが「器の大きなバカ、素直で正直なアホ」だと著者は語ります。
著者は遺伝子の分野において様々な功績を挙げることが出来ました。
ですが、著者はそんな自分自身のことも「劣等生でアホだった」と語ります。
本書の第3章の「愚か者こそ幸せ者」で著者の半生を知ることが出来るのですが、それは波乱万丈の人生でした。
武勇伝の様に語るのではなく、自分とは正反対で優等生で器用に生きている人に憧れを感じていたことなども包み隠さず告白し、それでもこの生き方でよかったと著者は自身の半生を振り返ります。
その章の最後に紆余曲折ばかりしていた自身の半生について、振り返った言葉が私の心に深く刺さりました。
鈍く愚かでアホな生き方が私達にもたらしてくれるもの
賢く要領のいいやり方よりも、不器用だが真面目で愚直な生き方。
そういうものを天はよく見ており、また高く評価もしてくれるのです。
愚直な生き方は遠回りを余儀なくされる、曲線的な生き方なのかも知れません。
物事を成就させるまで時間もかかります。
その点、賢く利口な人は最短距離を真っ直ぐ要領よく行く、直線的な生き方なのです。
しかし、私は曲線的にしか生きてこられなかったし、人にもあえてその遠回りな生き方を勧めたいのです。
なぜなら、曲線は人に深みや厚み、奥行きや豊かさを与えるからです。
戦後の治水行政は川を真っ直ぐにして、大水が出たらそれを最短距離で海に逃がすことで洪水を防ぐことを取ってきました。
しかし、その結果堤防はどんどん高くなり、河川敷も狭くなった上に川が自然に蛇行している為に、深いところもあれば浅瀬もあり、ゆっくりと流れるところもあれば急流もあるという、生物にとっての多様な生息環境が失われることになりました。
それは曲線を廃して直線を優先したことの結果とも言えますが、そうした直線的な方法は今様々な点で行き詰まりを見せています。
人よりいい成績を上げて、いい学校、いい会社に入り、勝ち組の椅子を得るために決められたコースを一直線に突き進む。
最短距離で先を急ぐ、そういう戦後的生き方のモデルは本当に私達に真の幸せをもたらしてくれたでしょうか。
それよりも、回り道もあれば寄り道もある、蛇行や曲線をいとわず、じっくり進む。
鈍く愚かでアホな生き方の方がよほど私達人間に、生物としての豊かさや多様性、深みや厚みを与えてくれるのではないか。
私にはどうもそのことが疑いのない、科学的事実の様に思えて仕方がないのです。
(『アホは神の望み』より引用)
今、あなたがこの記事を読んでくださっているのは、何か悩みがあるからだと思います。
悩みがあると、直線的な生き方をされている人が何だか羨ましく思えてしまったことはありませんか?
私も自分では抱えきれないほどの深刻で重い悩みを抱えていた時は、直線的な生き方をされている人を見ると羨ましいなという気持ちで眺めていました。
そして「あの人は要領よく生きているのに、自分はなんてダメなんだろう」と勝手に比較して我が身を振り返って落ち込むところまでがワンセットでした。
ですが、本書の言う通り直線的に生きることだけが生き方の正解ではないのです。
そもそも、生き方に万人に当てはまる普遍的な正解なんて存在するのでしょうか。
直線的な生き方はあくまで「周囲の人が考えたこんな人生が幸せと呼べるのではないか」という考えから生まれた正解のひとつであって、それが本当に幸せを感じられるかどうかはその回答を手にした人の感性次第です。
それに本当に幸せだと思っているなら、直線的な生き方をされている人がやりがちな行為のひとつである、SNS上で不特定多数の人に向けて「自分は幸せですよ」アピールをしようと思わないでしょう。
結局、それは学校のテストで正解があるように生き方にも正解があると錯覚して、他人に認めて貰わないと自分が幸せを感じられないという基準で生きている人達の感性が辿り着いた正解のひとつにしか過ぎません。
あなたが何に幸せを感じるのか、どんな生き方に幸せを感じるのかはあなた自身の感性で自由に決められます。
悩みがあっても、悩んでいたり解決に向けて行動している姿は、生物としての豊かさや多様性、深みや厚みを与えてくれる素晴らしい生き方のひとつでもあります。
遺伝子の研究で世紀の大発見をして偉業を成し遂げた著者の「鈍く愚かでアホな生き方」から「こんな風に生きてみてもいいんだ」とあなたが心からそう思えるように、本書をぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
本記事を最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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