絶対に失敗してはいけない職業
「私、失敗しないので」
ドラマ「ドクターX」で米倉涼子さんが演じる主人公の大門未知子の決め台詞です。
ドラマを見たことがない方もこの決め台詞は知っているという方も多いのではないでしょうか。
あらすじを簡潔に説明すると、群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけを武器に突き進むフリーランスの天才外科医である大門未知子。
大門未知子が病院組織で数々の騒動を巻き起こしながらも、外科医の本質である手術や治療を成し遂げるため、一切の妥協を許さず突き進む姿を描いた医療ドラマです。
医療ドラマには人間関係の衝突がよく描かれていますが、「ドラマだから演出でわざと対立させているのかな」と私は思っていました。
ですが、実際の医療の現場も人間関係で衝突が起こるのは珍しいことではないと言います。
人間関係の軋轢を抱えつつ、人の命を預かる仕事なので「絶対に失敗してはいけない」というプレッシャーも抱えながら、それでも押しつぶされずに現場で働かれている医師の方達はどんな風に心と向き合っているのでしょうか。
今回ご紹介する『心を安定させる方法』は、現代のブラックジャックと呼ばれている心臓外科医が医療現場の重圧に負けずに心をどの様に安定しているのかを説明している本です。
いつも本サイトを訪れて記事を読んでいただき、ありがとうございます。
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著者の渡邊剛(わたなべごう)さんは現在、ニューハート・ワタナベ国際病院の院長をしています。
幼い頃にブラックジャックに憧れ、外科医を志して50年になりました。
希望だけに溢れていた20代、「君の居場所は無いよ」と言い放たれた30代、社会の壁に跳ね返され続けた40代、ロボットを使った心臓手術で世界一となった50代を経て、今では多くの方から現代のブラックジャックと呼ばれることが増えたと本書で語っています。
「現代のブラックジャック」と呼ばれているほどの名医であれば、幼少期から特別な環境で育った特別な人物だと思われるかもしれません。
ですが、著者は「私は決して才能溢れる特別な人間ではない」と否定しています。
本書のタイトルにも採用されている『心を安定させる方法』に関して、「地方の大学病院で辛酸を舐め、海外で自分の実力と評価に絶望して死を考え、それでも踏みとどまってギリギリのところで何とかやってきた私が、出会ってきた人からの知見や目指す目標に到達するためにがむしゃらにあがいて辿り着いた、スマートでも、ましてやかっこよくもない泥にまみれたメソッドである」と才能だけで辿り着いたわけではないことを間接的に述べています。
では、どの様な経緯で「現代のブラックジャック」と呼ばれているほどの名医になったのでしょうか。
本書で「全てはブラックジャックから始まった」の一文から始まる著者の経歴に関して紐解いてみましょう。
著者は1958年に東京で生まれました。
医者によくあるような両親や一族が医者の家系というわけではありません。
会社員を務める父親と教育熱心だった母親によって育てられたごく普通の家庭です。
そんな著者が医者という存在を強く意識したのは中学校三年生の時です。
当時、自分の将来に悶々とした気持ちを抱いていた著者は、友達が貸してくれた漫画雑誌「週刊少年チャンピオン」に掲載されていた手塚治虫の「ブラックジャック」に目が釘付けになりました。
自分の技術を高めていけば、それが世の中の人の為になり、評価に繋がる。
出身の医学部が東京大学だろうと私立大学だろうと結果が全て。
そう簡潔に描かれていたことが進む道を決めあぐねていた著者に強い衝撃を与えました。
「ブラックジャック」はその後の著者の人生にも大きく関わることになります。
外科医になることを決意した著者は高校卒業後に金沢大学医学部に入学しました。
医療のどの分野に進むかは本当に悩んだと本書で語っています。
その時に出会ったのが「心臓を語る」という心臓外科の世界的権威、榊原茂先生が書かれた本でした。
その本を読んで感銘を受けた著者は心臓外科医になることを決めました。
大学時代はひたすら心臓の研究に時間を費やしました。
そして1984年、昭和59年に金沢大学医学部を卒業後、一年間は金沢大学病院に在籍。
その後は大船共済病院(現:横浜栄共済病院)に移り、患者さんたちと向き合いました。
この頃、著者の心はモヤモヤとした感情を抱いていました。
心臓外科医としての腕を磨く機会をなかなか得られないでいたからです。
このままでは目指している心臓外科医になれないと焦りが募りながらも、ここでは患者と向き合う姿勢を叩き込まれました。
そんな時、欧米で技術を磨くことを勧めてくれた病院の先生の言葉で著者は留学を決意します。
1989年、日本の元号が昭和から平成に変わった年に著者は新天地であるドイツに降り立ちました。
その二年前に心臓外科医の世界的権威であり、心臓外科医の父と呼ばれるハンス・G・ボルスト教授の講演を聞く機会がありました。
その席で著者の心は強く揺さぶられることになります。
「ボルスト教授の元で学びたい」と強く思った著者は、ボルスト教授のいるハノーファー医科大学に留学することを決意しました。
医療に対して自分にも他者にも厳しい姿勢で向き合うボルスト教授の元で働いたことは、著者が心臓外科医として成長する大きな転機となりました。
ですが、著者は今まで生きてきた人生の中でこの時が一番辛い時期だったと振り返っています。
この頃の著者は語学に難を抱えていたこともあり、会話が上手く出来ずひどく孤独感を感じていました。
さらに唯一の居場所として感じていた手術室においても、同僚の医師や看護師からの陰湿ないじめを数ヶ月に渡って受け続けていました。
やがて、「辞めてしまいたい」と切羽詰まっていた気持ちに陥っていた著者は、住処にしていた大学内の27階のアパートで、「ここから飛び降りたらどんなに楽になるだろう」と思い詰めるようになっていきます。
そんな時、心の支えになったのが少年時代に憧れた「ブラックジャック」です。
彼の様な手術のスキルを手にするために練習に没頭することで、その辛さを自身の医療技術を向上するための原動力に変換させました。
豚の心臓を市場から買ってきては血管を繋ぐ練習をする日々。
ひとつの心臓で30回は練習するような日々を続けていると、感覚が研ぎ澄まされていき、血管を繋ぐスピードもどんどん速くなっていきました。
このような努力をコツコツと続けていくと、徹底した実力主義の現場でも次第に周囲が認めてくれるようになり、手のひらを返したかの様に敬意を払ってくれるようになりました。
本書の第1章の「心臓と向き合って40年」から文章を一部引用して、著者がどの様な家庭で育ったのかからドイツでの留学生活までをお伝えしました。
ここまでの著者の経歴を紐解いても、著者が特別な環境で育ったわけでも天才肌で才能だけで突き進んでしまうような特別な人間だったわけでもないのがよくわかります。
日々の努力を積み重ねて困難を乗り越えてきた努力型の人間です。
心に大きな揺さぶりをかける出来事に遭遇しながらも、自らの心を安定させて自分に出来ることを積み重ね続けました。
その「自らの心を安定させる方法」をまとめたのが本書です。
本書では様々な方法が紹介されていますが、私が特に心に残った方法が第3章の「人間関係で心が乱されるあなたへ」で紹介されている心得8の「屈辱は逆に力にもなる」です。
なぜ明確な判断基準を持つことが大切なのか
嫌なことや理不尽に感じることからは逃げるという選択肢を取ってもいいと思います。
体もケガをしたら手当てをし、リハビリを行って復帰していくように、心も傷を負ったら同じことをすべきでしょう。
ですが、最も大切にしていること、例えば自分の思いや夢を汚された時だけは向き合い、立ち向かってください。
特に、あなたが心の中で育ててきた思いを誰かが自分の利益だけを考えて放った発言によって破壊することは許されないのです。
「必ず旧態依然とした医療を変えてやる。患者さんたちのためにも」
受けた屈辱は成長しようとするあなたの心の餌になります。
時間をかけてもかまいません。
屈辱と向き合い、多くを吸収し、心をより大きく成長させましょう。
(『心を安定させる方法』より引用)
人が大きく成長するカギは、挫折を味わったときと屈辱を味わったときだと思うと著者は述べています。
挫折は自分との対話によって味わうものですが、屈辱は誰かによってもたらせる、より味わいたくない感情です。
「残念ながら、私は後者でした」と本書で語っています。
「屈辱は誰かによってもたらせる、より味わいたくない感情」と聞いて、味わいたいと思う人はいないでしょう。
ですが、そういった言葉が存在する以上は人生で起こりうる可能性のひとつでもあるのです。
屈辱を受ける前にそこから逃げ出すこともあなた自身を守る大切な選択肢ですし、屈辱を受けてなお向き合い心の成長に繋げるのもあなた自身を成長させてくれる大切な選択肢です。
屈辱に遭遇した時は「逃げる」だけの選択肢しか選べないわけではありません。
「向き合って心の成長に繋げられる」という選択肢もちゃんと存在します。
そしてそれに立ち向かうのは、自分が最も大切にしていることが汚されそうになったときだけでいいんです。
全てを相手にしていては心が擦り切れてしまうし、全てから逃げていては心が成長しなくなってしまいます。
なので、あなたが心の成長に繋がりそうだと感じた出来事から選んでください。
ここでもうひとつ注意して欲しいのが、「屈辱の受けた後の心の傷の深さ」を受ける前に確認しておいてください。
自分自身が向き合えないほどの傷には逃げた方がいいです。
屈辱は「向き合って」初めて心の成長に繋がるので、向き合えなければ意味がないからです。
場合によっては、事前に自分で選べずにもらい事故のように不可抗力で屈辱を受けてしまうことがあるかもしれません。
その際は「逃げる」という選択肢を選んで、傷の手当てを優先させてください。
自らの心の準備が出来ていない状態で傷を負うのは、準備が出来ている場合と違って深刻な傷の深さになっている場合が多いからです。
逃げて逃げて、心の傷の手当てに専念して、ある程度回復してから向き合っても遅くはありません。
「時間をかけてもかまいません」と書かれている通り、肉体的に傷を負った際も治癒に時間がかかるように心の傷もまた同様です。
心の傷を癒すのも向き合うのも時間をかけてもいいんだと、あらかじめ理解しておくことで焦らないようになります。
「逃げる」のか「向き合う」のか、その判断基準はあなたが自由に決めることが出来ます。
しかし、事前に詳細を決めておいて準備しておく必要があります。
実際にその場面に出くわした時にどうしようか迷っていては遅いのです。
あなたが心を安定させる方法をあなたなりに確立するためにも、本書をぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
本記事を最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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